rompercicci::diary

東京中野にあるコーヒーお酒ジャズのお店ロンパーチッチ

渋谷逡巡記

本日は貴重なご来店まことにありがとうございました。世間は6年ぶりの暖冬とのことですが、こちらはしっかり冬本番。私どもの台所を暖めてくださったお客さまに感謝を捧げます。ありがとうございます。
本日おいでくださったお客さまにすばらしいことがありますように。

またぞろレコードの話を失礼します。
渋谷のユニオンから土曜日に届いたメルマガに週末セールの価格付きリストが掲載されていたのですが(同じものがここにあります)、見るとここ数年うっすら探していたアーチー・シェップの『Attica Blues Big Band』が出てるじゃありませんか。しかもお値段2480円。これ普通なら4000円くらいするアルバムですから、かなり思いきった破格値です。盤質もA表記だし、国内盤みたいな記載になっているけど、これって直輸入盤に解説付きのデカい帯が巻きつけてあるだけで、中身は完全なる輸入盤だし。これはぜひとも買わねば。定休日になったら駆けつけよう、と思っていたのです。そして、案の定というか、行ってみたらもうなかったのです。
店のそれっぽい売場を全部当たって、見つからないものだから店員さんにも訊いて、ふたりして結構な時間をかけて家捜ししたのですが見当たらず。しばらくして店の端末に再度向かい合った店員さんから「やっぱり週末に売れてしまった模様」との報告があって残念無念。でもここまで来て手ぶらで帰るのも癪だよなあ、とセールの棚をいじくっていたら見つけてしまったのです。アート・ジャクソンの『Gout』というアルバム。
ご存じでしょうか? マイルス・デイヴィス関連の有象無象の音源の中でも、特に超の付く幻盤としてごく一部で知られていたレコード。私がウダウダ書くよりも、このアルバムについて故・中山康樹センセイが書かれた文章を写経してみることにしましょう。

 
 アート・ジャクソンという黒人ギタリストが浮上する。'74年(詳細な時期は不明)、マイルスはアート・ジャクソンと出会い、製作費を肩代わりし、CBSコロンビア・レコードでデビュー・アルバムの録音を行なう。グループ名はアート・ジャクソンズ・アトロシティ、アルバム・タイトルは『ガウト(Gout)』。グループは、ギターのジャクソンをはじめ、2サックス、4ドラムス、2キーボード、ベース等、推定11人編成といわれる(ジャクソン以外の氏名は不明)。
 デビュー・アルバム『ガウト』はプロモーション盤が制作され、一部の関係者に配られたが、その後発売中止となり、現在も日の目をみていない(本書「巻末資料2」参照)。一説によれば、レコード会社側がセールスを懸念して中止を決定した、あるいはアート・ジャクソン自身がドラッグによって活動不能の状態に陥ったともいわれる(急逝したとの報もある)。[…]
中山康樹『エレクトリック・マイルス1972-1975』170-171頁)
 

私がこの幻のアルバムの存在を知ったのは、上掲の本が世に出る(2010年)少し前、たしか中山センセイ周辺のネット掲示板で、『Gout』の音源がネットにアップされた、という話が興奮気味に書かれていたのを目にしたときだったと思います。そのアップされた音源というのがコチラの記事。下のリンクから1曲目をまるごと聴くことができます。ご一聴してお分かりのとおり、相当にグッチャグチャなサイケデリックジャズロックです。

実はこのアルバム、上掲の本が出てから1年も経たないうちにブートレグのレーベルの手によってCD化されています。中山センセイが煽ってブート屋さんが流出させる、という一連の動きがこう、あったようななかったような。CD化に際してこれまた中山センセイが書いている記事がコチラ

CDになっているのは知ってた。でもレコードはやっぱり幻のプロモ盤しか存在しないものだと思っていたのです。でも今回私がユニオンで見たのは、2012年にイタリアで限定プレスされたというリイシュー盤(そもそも発売されていないのにリイシューという表現も妙ですが)。まさかこんなものが出ていたとは。しかも世界限定99枚プレスとのこと。うわー、なんかかき立てられる。所有欲をかき立てられる。私はせっつかれるようにレコードをひっつかんで、そのままレジに向かう前に、ついいつものくせで試聴させてもらうことにしたのです。そしてその結果、買うのをやめることになったのです。えーと、ちょっとお店では使いづらい感じがしてしまって、ものすごくほしかったんですけど。「よーく考えよう、お金は大事だよう」って押尾学の奥さんも言ってたことだし…。
そして、やっぱり今になって買うべきだったんじゃないかとヒシヒシと感じているのです。世界限定99枚(ホントかどうか知りませんけど)。まだ渋谷にあるかなあ。

…なんだか物欲まみれのことを書いてしまいました。そもそもお客さまから頂戴したお金なのに。レコードを買うのはお店でお客さまに還元するためなのに。今お店に必要なのは2管ハードバップなのに。思いは千々に乱れるのです。

それはそれとして、明日は今日以上に暖かな1日になりそう。どうかお店にも温もりを。
みなさまのご来店を心よりお待ちしております。

その足で中野新橋に向かい、斯界の大先輩ジニアスさんに数年ぶりにお邪魔しました。大人の風格漂うお店。この面積とこの店舗設計でどんなお客さまでも受け入れられる構造になっているのだなあ。これは敵わないです。