rompercicci::diary

東京中野にあるコーヒーお酒ジャズのお店ロンパーチッチ

《これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム》アウトテイク集

都知事選にゲリラ豪雨と盛りだくさんな7月最終日、みなさまご来店ありがとうございました。前日のイベントの席上で、むしろ集客にとってマイナスにしかつながらなさそうな発言を繰り返した手前、今日になって売上がガクンと落ちたらどうしよう、と内心ヒヤヒヤものでしたが、ひとまず変わらぬご愛顧を頂けたものとホッとしております。
本日ご来店くださったお客さまにすばらしいことがありますように。

改めて、土曜日のイベント《これからのジャズ喫茶を考えるシンポジウム》に足をお運びくださったお客さまにお礼を申し上げます。フタを開けてみれば超満員、普段は閑古鳥の鳴く店内で店番を勤めている私たちにとってはにわかに信じられない光景で、あまりのお客さまの数にビビッたわれわれ登壇者、事前にぼんやりと立てていた進行もあらかた消し飛んでしまいました。場内満席でお立ち見になってしまったお客さまや、会場にお入り頂けずにお帰りになったお客さまには伏してお詫び申し上げます。また、イベント進行がいささかルーズにすぎる展開になってしまったことにもお詫び申し上げます。

シンポジウムの途上、私が唐突に「ジャズ喫茶経営指南(という名のグチ並べ大会)」みたいなものを始めたことに違和感を感じられた方も多かったかと存じます。中にはご不快の念をお持ちになった方もいらっしゃるかもしれません。
これからのジャズ喫茶を考える上で俎上に載せるべき重要ポイントは「選曲」や「オーディオ」ではなく、もっと思いきって言えば「ジャズ」ですらなく、ひたすら「経営」の話だろうと思っていました。ジャズ喫茶店主が選曲やオーディオについて、あるいは“ジャズに対する熱い思い”について語る企画はそれこそ過去にゴマンとありましたし(それだけ需要があるということでしょうが)、個人的にはそれを今この場で繰り返すことに大きな意義を見出すことができませんでした。それよりも、今この席に座る機会を与えられた私がするべきことは、今までとはちがった視点でジャズ喫茶についてお話することではないか、と思っていたのです。
当日ではこの「そもそも」の部分をうまくお伝えできなかったため、みなさま「いきなり狂犬が吠え出した」みたいな感覚をお持ちになったことでしょう。狂犬なのは覚悟の上なのですが、事前にもう少し違和感を減らすことができれば、みなさまもっと話の内容に踏み込んで頂けたのではないかな、と反省しております。

突然おっぱじめた狂犬タイムですが、アレだけ長々とお話させて頂いた上で、実はまだ手つかずの話題が残っています。「オマエ普段どれだけ溜め込んでんだよ」という話ですが(お恥ずかしい)、このままだと永遠に発表の機会もありませんので、ここで未発表部分について概要だけでも書き記しておいて、来るべき忘却の日に備えておこうと思います。当日会場にいらっしゃらなかったみなさまにとっては「なんのこっちゃ?」でしょうが、どうかご容赦ください。長いです。

              • -

1. ジャズ喫茶を語る際に「個人店」「小商い」という言葉がもっと出てきてもいいよね、という話

経済が縮小している現在にあっては、お客さまは「店に足を運び、お金を使う」という行為に対して否応なく自覚的にならざるをえない。
「店に足を運び、お金を使う」という行為は一種の投票行為と言える。このお金が誰に届くか。このお金で誰が生活しているか。良きにつけ悪しきにつけ、大型チェーン店に比べて個人店はそこが想像しやすい。
「普段の生活は倹約を心がける代わりに、自覚的なタイミングで落とすおカネは惜しまない」というお客さまは少なくない。この「普段の生活」で小さく、けれども日常的におカネを使って頂くか、「自覚的なタイミング」でエイッと資金投下して頂くか、お店が続くためにはこのどちらかに引っかかる必要があると考える。そして、個人店であるジャズ喫茶は、この後者の選択肢の対象になりうることに自覚的であっていいと思う。
コスパ一辺倒の消費活動の中に、こういったヒューマンな視点を持ち込むのは、資本主義的見地からすれば不合理で前近代的。ただこの泣き落しに支えられないとツライ側面はとても大きい。

2. 客数と客単価について、第3の視点

【売上】=【客数】×【客単価】という(極めてジャズ喫茶らしからぬ)話をした。その際、「商品単価を上げることで客単価を上げる」という視点と、「商品単価は上げないが、おかわりをしてもらうことで客単価を上げる」という視点があることを説明した。さらに言えば、この後者の難しさとして「2杯目の壁」問題があることを付け加えた。
当日では言いそびれたが、もうひとつ視点がある。それは「商品単価を上げない。おかわりもしてもらわない。その代わり、また来てもらう」というもの。お客さまに短期リピートして頂くことで、実質的に客数を伸ばす、という考え方である。むしろ、ジャズ喫茶という営業形態にはこれがいちばん見合っているかもしれない。もちろん、短期リピートして頂けるだけのお店の魅力があることは前提となるだろう。「どうすればお店の魅力が向上するのか」といういちばん本質的なポイントについては何も申し上げられない(むしろこちらが教えてほしい)。
ただ、この視点の落とし穴は「短期リピートしてくださるお客さまが、もしお店にとって難しいお客さまであった場合、売上以上にモチベーションが削られてしまう」というところ。この点については当日ウンザリする(ウンザリされる)ほどご説明した。

3. 悪いマリアージュの話

古来ジャズ喫茶には「1杯で何時間も粘ることが美徳」とされる因習があった。現在でも、いわゆる団塊の世代以上のお客さまを中心としてこの傾向は根強い。隆盛期のジャズ喫茶文化が現在に残した負の遺産と考える(「それこそがジャズ侍である」と切り返す視点が存在することには正直驚いた。個人的にはその感覚は共有できない)。
それとは別に、停滞期以降のジャズ喫茶には「オープンカウンターで店主と会話できる雰囲気」が生まれた。いわゆる「お聴かせ店」から「ジャズバー」への移行である。
この両者が悪いマリアージュを生んでいるという認識がある。「1杯でひたすらしゃべり続けるお客さま」の発生がそれである。特に昼間の営業で、コーヒー主体の商売をしている時間帯では、追加注文の発動がなかなか望めないまま、お話相手として何時間も使われてしまう危険性がある。このマリアージュを生んでしまったジャズ喫茶の歴史には罪が大きいと思っている。

4. やりこみ要素の話

オープンカウンターの店は店主との距離が近く、お客さまは店に続けて通うことで店主と「仲良くなれる」可能性が高い。(極端に下品な表現を使えば)これは課金しただけ成果が出るゲームとしてやりこみ要素が高い、と言い換えることができる。それに比べて、カウンターのない店は初入店の敷居が低い代わりに、そこから上に行く(店主と仲良くなれる)要素が極めて少ない。レベルアップのないゲームに対してやりがいを感じないというお客さまは少なくないはず。

5. こんにちのジャズ喫茶の存在意義について

こんにちのジャズ喫茶の存在意義として、「ジャズを聴けるお店である」と同程度に「他人のおしゃべりを聞かずに済むお店である」としての要素が大きいと感じている。
この話は個人的信念に基づきすぎているため、あまり説得力のある議論は展開できない(私自身咀嚼しきれていない)のだが、「なぜジャズに興味のないお客さまがジャズ喫茶にリピート訪問するのか」という疑問に対する有力な回答になるとは思っている。

              • -

またまた長くなりました。そして現在翌8月1日のお昼前。私はブログ相手に何やっているのでしょうか。

本日は定休日です。また明日、火曜日からのみなさまのご来店を心よりお待ちしております。